聞間元医師の人間としての誠意を感じた学習会だった
7月29日、浜岡原発を考える会主催の学習会を開催した。講師の聞間元(ききまはじめ)医師とは初めての出会い(メールでは何回かやりとりしたが)だったが、本当に誠実な方だった。
質疑応答も含めると2時間20分以上も休まずに核兵器開発と原子力の平和利用(原発)の関係、原発の原理、原子炉の構造、福島原発の放射能拡散の状況、そして人体への影響について、パワーポイントを使用して分かりやすくお話してくださった。
その内容が多岐にわたり、かつ豊富なのでまとめるのが困難なのが正直なところである。参考までに先生が用意してくださったレジメをコピーする。
なお参加者は50数名。主催者として100名を予想していたのでもうすこし沢山来てほしかった。写真を撮ったが、うまくブログに掲載できのも残念である。
2012.7.29 浜岡原発を考える袋井の会
原発事故と放射能
浜北医療生協きたはま診療所 聞間 元
1 福島原発事故によりどんな放射能汚染が始まっているのか
―原発から放出された放射能の種類と総量は?
・放出前の放射能は原子炉内の燃料棒(110万KW級の炉内に約48,000本)につめられた核燃料ペレット(燃料棒1本当たり約340個)の中にあった
・地震と津波による全電源喪失のため燃料棒を冷やす水が補給できず、燃料棒の被覆管が融けて放射能が鉄製の格納容器の底に溜り、穴が開いて容器外に漏れた
・燃料棒被覆管のジルコニウムの反応で水素が発生し、引火して爆発した
・そのため放射性のヨウ素、セシウム、ストロンチウム、プルトニウムなどペレット内に生成されていた約300の放射能(放射性核種)が煙雲として漏れた
・発電中の原子炉内にあった放射能の総量は―チェルノブイリ原発で放出された放射能の約7分の1、広島原爆の約170個分の放射能似相当
・放射能雲として流れ出した放射能は風に乗り移動し、雨粒や浮遊塵に含まれて地上や太平洋上に落下した、また大気圏高層の風の流れにのって地球を回った
・セシウム137の土壌濃度を指標とすると、国土の20〜25%が汚染された
・ストロンチウム90も降下した塵の中から福島、宮城以外10都県で検出
2 福島の原発事故で私たちの生活にどういう影響が出るのか
・大事なこと―小児期の被ばくの影響が大きいこと
・放射線に被ばくすると、胎児、新生児の死亡率(流産率)上昇や発育・発達障害として早期に影響が出る可能性がある。
・少し遅れて5〜10年のうちに15歳未満の子どもに甲状腺がん、脳腫瘍、白血病などの悪性疾患の増加の可能性がある。
・さらに遅れて成人のがんや心臓病などの健康悪化への影響も否定はできない。但し低線量で被ばくした場合、放射線以外の要因(喫煙や飲酒、ウイルス感染症など)の影響が大きいことが普通で、放射線の影響は統計的に隠れてしまう可能性が大きい。
・外部被ばくと内部被ばくのどちらの影響が大きいかは、生活圏の汚染状況、暮らし方、食事内容などの生活習慣の違いで変わってくる。事故初期のうちは外部被ばくの影響が大きく、時間が経つにつれて内部被ばくの蓄積的影響が重くなる。
・原発の事故ではまず子どもを優先して避難させることに尽きる(福島では情報の混乱で避難地域の子どもの避難優先が不徹底だったと見られる)
・内部被ばくの防護は、水や牛乳、食物などの汚染の正確な情報を得ることが必要だが、チェルノブイリでは放射能汚染の情報が約3年間隠されていたため、多くの子どもたちが牛乳や食物からの内部被ばくを余儀なくされた。
3 放射能汚染の歴史の実態と教訓
1986年と2011年、わずか25年の間に起った2つの原発苛酷事故は、このまま地球上に人工放射能(放射性廃棄物)を産み出し続けるとしたら人類はどうなるか、子どもたちはどうなるかという未来への警告である。
これまでの人工放射能による災害はとくに子どもに深刻な影響を与えた
⑴ 2つの原子爆弾投下による被害
明らかになった急性原爆症(放射能症)、続いて起った晩発性放射能障害(白血病やがんの多発)、直接被ばくでなくとも起こる「遅れてくる死」の実態
広島・長崎の調査で成人より小児期の被ばくの影響が大きいことが明確になる
⑵ 1950年〜60年代の核実験場周辺の住民被ばくの影響
ビキニ(マーシャル諸島)、セミパラチンスク(旧ソ連)の子どもの被害
⑶ 湾岸戦争(1991年)で使用された劣化ウラン弾による放射能被害
明らかになりつつある先天異常児、小児白血病など子どもへの被害
⑷ チェルノブイリ原発事故の放射能被害もまず最初に子どもに現れている
① 汚染地域の乳幼児の死亡が増加した
② 人工及び自然流産が増加し、出生率が減少している
③ 奇形や遺伝子異常を持つ子どもが増加した
④ 子どもの不健康、がん以外の疾患への易罹患傾向が見られる
⑤ 子どもの甲状腺がん、脳腫瘍、神経芽細胞腫、白血病の増加
4 低線量でも放射線の被ばくは子ども達の未来を脅かしている
・「低線量の内部被ばく」の影響は、下記のような理由で分かりにくい
① 内部被ばくの線量の測定が困難なこと(ホールボディカウンター計測は限定的)
② 一過性でなく反復性で慢性的な被ばくになるため測定がさらに困難なこと
③ 影響が現れるのに長期間要するため(晩発性障害という)、がんや、がん以外の病気や身体異常の原因として確定しにくいこと
④ 病気の発生は一定の割合で起る(確率的影響)ので、その発生率が低い場合は他の原因(例;感染症、喫煙、ダイオキシンなど)との区別が困難なこと
・しかし「影響が小さい」というのは「影響があっても放射能の影響と証明できない」のであって、「影響が小さいからその被ばくは安全」と言う意味ではない
・放射線の人体への傷害は「遺伝子」の傷害として永続する可能性がある以上、常に「被ばくを最小限にとどめる」責任が使用者(原発業界)にある
5 子どもを放射能被ばくから守るために必要な対策
① 外部被ばくを防ぐための生活圏での放射能除染(本当は“移染”)
② 内部被ばくを防ぐための汚染食品の調査と情報提供
スウェーデンでは食品からの放射線被ばくを年間1ミリシーベルト(セシウム137換算で75,000ベクレル)以下に規定している
③ 子どもは早く放射性セシウムを排泄する(成人は体内のセシウムが半分になるのに約3ヶ月、1歳の子どもは約1週間)。排泄を促進するため非汚染地で一定期間過ごす
7 静岡では、今何が必要か〜予想される災害に備えるために
① 浜岡原発は再稼働をせず、敷地内にある「核燃料」「高線量放射性廃棄物」を一日も早く安全に保管すること
浜岡原発内の使用済み核燃料保管量は2010年度末で6,625本
② 子ども達とその親に正しい放射線被ばくの知識を与えること
国は小中高向けに3種類の教育用副読本を配布したが内容は不十分
③ SPEEDI(緊急時の被ばく予測システム)を活かすためモニタリングステーション(MS)を主要避難路にあわせて設置すること
現在浜岡10km圏内のMSは14カ所、気象局3カ所の17カ所のみ。
国道150号線東西方面や牧ノ原菊川掛川方面の道路沿いに増設必要
④ 周辺地域でのヨウ素剤の配置を分かり易く配置すること
御前崎市の例:ヨウ素剤はオフサイトセンター(御前崎市池新田、原発から2.3km)に保管してある。紛失
、誤飲等があるため、各戸に配布はしない。周辺住民が避難した場所などにおいて服用することとしている。配布は医者と職員で防護服着用の上配布する。
ヨウ素剤の取り扱いは国の指導・助言に基づき、県の現地災害対策
本部長がヨウ素剤の配布を市長に指示し、住民に配布、服用することになっている
⇒福島県でただ一つ安定ヨウ素剤を住民に配布した三春町の経験を今後に活かす
地震列島日本で放射能から子どもを守るには原発の廃炉以外にない!
最近のコメント