関東大震災から100年 映画「福田村事件」を鑑賞しての感想 日本社会の構造にメスを入れた作品
全国で9月1日から上映されている話題の映画「福田村事件」を、19日に浜松市のシネマイーラで見た。づしんと重いものを突き付けられた! 森達也監督はドキュメンタリー映画を手掛けてきたが、今回初の劇場映画に挑戦。
悲しい、深刻なテーマの映画であるが、森監督は見るものを飽きさせないよう、途上人物に深みと人間らしさを与えるため、出演する俳優陣を個性的でベテランを含む豪華な人たちを使っている。
井浦新、田中麗奈、永山瑛太、ピエール瀧、東出昌大、コムアイ、水道橋博士、豊原功補らが、それぞれ光る演技を見せ、迫力あふれる映画になっている。
事件は1923年9月6日、千葉県の利根川沿いの福田村(現野田市)で起きた。9月1日、関東大震災が起き、朝鮮人が「井戸に毒を投げ入れた」、「あちこちに放火」、「混乱に乗じて婦女子を襲った」、「略奪している」などの流言飛語(デマ)が飛び交っていた。そのウソ情報は民衆だけでなく、軍や警察からも出され、行政もそれを信じ、自治会も巻き込まれた。各地で自警団が組織された。
当時の日本は朝鮮国を併合して植民地にしていた。貧しい朝鮮の人々はやむを得ず食うために日本に出稼ぎに来ていた。日常的に地域で差別されていた。中国の満州地域は日本軍が占領して、満州国がでっち上げられ、、政府・帝国陸軍は支配を正当化するため、朝鮮人・中国人は劣っている、だから優秀な日本が中心となり、大東亜共栄圏を作る、天皇中心の国体、植民地の人間も天皇の赤子であり、服従するのは当然。
この誤った考えを民衆に植え付けるために、国策として教育(学校)を最大限f利用した。報道機関を政府の監督下に置き、自由な言論は封殺された。国の方針だから、県、市町村行政機関も、誤った考えに基づいて行政を執行。
国策が差別・分断社会を作り、そうした社会で生まれ育った子ども・青少年・青年・大人も、差別するのが当然との意識が形成された。
こうした背景で、香川県の被差部落の行商団一行が讃岐弁を話していたので、朝鮮人と間違えられ、幼児・妊婦を含む9人が自警団に虐殺され、遺体は利根川に流された。
殺害に加わった自警団員8人は逮捕され実刑判決になったものの、大正天皇死去に関連する恩赦ですぐに釈放されている。福田村では村の恥とこの事実を口外することは禁じられ、報道機関も記事に出来なかった。
映画でも村の駐在が、行商団が持っていた鑑札(一種の身分証明書)が本物かどうか、確認するからそれまで待てと命じ、直ぐに虐殺は実行されなかった。その待っている間の、村人と行商団一行のやり取りが、日本社会の差別構造を上手に描いている。
香川県の被差別部落で生まれ育った人たちは、日常的に地域の人々に言われなく差別を受け、自らをエタ非人に生まれたとあきらめていたが、当時水平社宣言が発布され、人間の誇りを取り戻す水平社の運動に共感していた。水平社の宣言文を肌身離さず持っている若者も行商団の中にいた。
自分たちは日本人であると堂々と村人たちに対峙するが、話し方が讃岐弁なので誤解が解けない。団長が朝鮮あめを買ってあげた縁で村に住む朝鮮人の娘さんからお礼にもらった扇子を、村人と対峙する間に使用したところ、村人が「これは朝鮮の扇子だ。こいつはやはり朝鮮人だ。殺してしまえ」と殺気立つ。村長がはやる村人を納めるために、「もしもこの人たちが日本人だと分かれば、日本人を殺すことになるのですよ。駐在が戻るまで待ちましょう」と説得するが、興奮した民衆は今度は矛先を村長に向け、朝鮮人をかばうのか、とますます殺気だつ。
行商団団長が、「朝鮮人なら殺してもよいのか!」と、叫ぶシーンがある。森監督はこの言葉に映画のテーマを込めていると僕は思う。差別されている側に何をしてもよいとの考えは、今日も存在する。
障がい者に対する殺人事件、ホーームレスの人たちに対するいじめや殺傷事件が起きる背景に、差別構造がある。殺人・傷害ではないが、沖縄の民意を踏みにじる政府・司法が沖縄県知事玉城デニーさんに辺野古埋め立てを迫り、承認しなければ代執行すると脅し、それでも知事が勧告・是正に応じなければ裁判にかけ、裁判所が国の方針を認め、この秋にも現実にそうなる恐れが出てきた。
「国を守る」との大義名分が、人々の意識を捻じ曲げる。国策の基、国の機関が何をやっても許される構造が、残念ながら日本社会に生きている!
虐殺に加担した福田村の民衆は、朝鮮人を殺すことが国や地域を守ると信じ、とんでもないことを実行した。この過ち・歴史の事実を、闇に葬る・隠すことなく、さらけ出すこと、その過ちを正視して2度と同じ過ちを起こさないよう歴史に学ぶことが大切だと思います。
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